前回の続きです。今回も教師が知っておくべき心理実験をご紹介します。
3、第二のアドルフ•アイヒマンは誰でもなりうる?「ミルグラム実験」
この実験はアイヒマン実験という別名があります。アイヒマンとは、アウシュビッツ収容所などで「ユダヤ人大虐殺」を指揮し、ホロコーストを粛々と計画指揮した男の名前です。
ここでアイヒマンについて簡単に紹介します。
アイヒマンは、最愛の妻との結婚記念日に、花を買うような男でした。戦犯として1962年12月に絞首刑になったのだが、彼が法廷で発言した言葉が「一人の死は悲劇だが、数万人の死は統計だった」というものであった。彼はなぜ多くのユダヤ人の殺害を決行してしまったのか?彼は本当に冷酷な殺人鬼なのか?
ミルグラム実験は誰もが第二のアイヒマンになってしまう可能性があることを示しています。
アドルフ•アイヒマン
エール大学の心理学者Stanley Milgramは「記憶力に関する調査」と題し、求人を募集した。実験内容は、被
験者を教師役と生徒役に分け、生徒役が問題を間違えた場合、教師役が電流による罰を与えるというものであった。実際には、被験者は全て教師の役割となり、生徒役はサクラがつかわれた。
実験を始める前に、生徒役が感じる痛みがどの程度か体感させるために教師役に45Vの電流を流した後実験を開始。生徒役が間違えると、教師役に生徒役に電気ショックを流すよう指示を出した。電圧は最初は45ボルトで、生徒役が一問間違えるごとに15ボルトずつ電圧の強さを上げていくよう指示された。電圧は最高で330ボルトまで上げられた。
実験中、生徒役は目の前には現れず、スイッチを押す必要が出た際に、電流の強さの指示だけが与えられ、電流を流すたびに度合いに応じて下記のような録音された叫び声が流された。
- 75ボルト⇒不快感をつぶやく。
- 120ボルト⇒大声で苦痛を訴える
- 135ボルト⇒うめき声をあげる
- 150ボルト⇒絶叫する。
- 180ボルト⇒「痛くてたまらない」と叫ぶ。
- 270ボルト⇒苦悶の金切声を上げる。
- 300ボルト⇒壁を叩いて実験中止を求める。
- 315ボルト⇒壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
- 330ボルト⇒無反応になる。
実験の途中、教師役の人々は電流を流す役割を拒むようになるのだが、白衣姿の権威ある博士が冷静にテストを続けるように下記のような指示をだす。
- 続行してください。
- この実験は、あなたに続行して いただかなくては。
- あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。
- 迷うことはありません、あなたは続けるべきです。
四度目の通告がなされた後も、依然として被験者が実験の中止を希望した場合、その時点で実験は中止された。さもなくば、最大ボルト数として設定されていたXXXボルトの電圧が三度続けて流されるまで実験は続けられた。
大学の予想では最高電圧まで実験を続ける被験者は1.2%だったが、実験結果は、40人中25人、なんと62.5パーセントの教師
役が最大ボルト数として用意されていたXXXボルト(xxxは致死暗示)の電流のスイッチをONにした。
もちろん多くの被験者が、途中でテストの異常性を訴え、すぐに辞めるべきだと提案したが、博士の「責任はこちらでとる」と発言もあり、300ボルト以前でテストを中断するものは1人もいなかったということです。
恐ろしい心理実験ですね。この実験のポイントは役割です。権威ある者からある「役割」を与えられた場合、その役割が人を死に至らしめるような間違った行動でも、自分の常識的な思考や判断を排除してその役割を果たそうとするということがわかったこです。
4、シェリフのサマーキャンプ実験
この実験は1950年代に行われました。実験の目的は、「集団がなぜ争うのか、またどうすれば和解できるか」を明らかにすることです。
実験方法は、11歳の男子を
11人集め、それぞれ名前をつけた2つのグループに分けます。別々のキャンプに1週間連れ出した後、再会させます。すると、彼らはお互いを名前で呼ばずにグループ名で呼びあい、一緒に食事をすることを拒んだのです。いくつかの遊びを提案しましたが、打ち解けることはなかったそうです。注目すべきは2つのグループをまとめた方法です。その方法とは彼らに、1つのチームでは解決できない大きな課題を与えるというもの。課題に対してお互いに助け合って問題解決に取り組むようになり、次第に仲良くなっていったといいます。
これらの実験からわかること
これらの実験から
- グループによる活動はグループ同士の連帯感を高めるが対抗グループへの敵対心を高める
- 敵対関係にあったグループのメンバー同士でも、同じ作業をすることで敵対心が消え、仲間としてお互いを認め合うようになる
ということを示しました。集団である目的を達成しようとすると、気持ちが一つになり、集団にとって対抗するグループは個人にとっても対抗意識がはたらく。まさに集団心理ですね。
学校教育では、班、クラス、学年など様々な集団を動かします。体育大会、文化祭、宿泊学習。生徒集団をうまく競わせたり、協力させたりする中で集団の力を高め、最終的には子ども個人の力を高めたいものです。