下のコピーは、日本新聞協会広告委員会が開催した「2013年新聞広告クリエーティブコンテスト」で最優秀賞に選ばれ、東京コピーライターズクラブの2014年TCC賞最高新人賞を受賞した作品です。
このコピーのテーマは、「しあわせ」。しかし、このコピーは誰が読んでも悲劇であり、人の心に何かを残す強いインパクトを持っています。なぜこのようなコピーを生み出そうと思ったのか。
作者であるTBWAHAKUHODOの山﨑博司氏が作品に込めた思いを下のように話しています。
「桃太郎」と言えば、桃から生まれた桃太郎がサルやキジを従えて鬼を退治しにいくお話で、子供のころにその絵本を読んだ僕たちは、鬼をやっつけた桃太郎を”ヒーロー”だと思ったに違いない。しかし、山﨑氏はこの桃太郎の話を全く違う視点で表現しようと思ったのだという。
桃太郎は正義であり、鬼を退治することでハッピーエンドというのが、『桃太郎』のお話。でも、「鬼は悪い奴だ」と言われても、お話は桃太郎の視点で描かれているので、本当に悪いヤツかどうかはわからないですよね。そして、桃太郎の視点で描かれたハッピーエンドは、退治された鬼の子どもにとってはとても悲しい結末。ある人にとっての正義や幸せといった価値観は、他の人の視点では全く違うかもしれない。それをこのコピーで表現したかったのです。
山﨑氏がこのような視点でこのコピーを考案したきっかけは、シリア内戦に対するアメリカの軍事介入問題です。「内戦状態で混乱するシリアに介入しようとするアメリカは、世界にとって”正義”であると世の中は思っていたのかもしれない。しかし、限られた情報の中で、ものごとを一方的に決めつけてしまうことが本当に正しいのか。それを桃太郎の話に重ね合わせて世に問いたかった」と山﨑氏は語る。
しかし、山﨑氏はこのコピーで政治的なアピールをしたかったわけでも、反戦運動をしたかったわけでもない。伝えたかったのは、ものごとを様々な側面から考えることの大切さ、私たちの社会生活で”相手の立場に立って考える”こととの大切さだ。自分の価値観で見えている世界と、ほかの人の立場で見えている世界は全く異なる。それをひとつの側面からだけで判断してしまっては、誰かの幸せの裏で誰かが不幸になるかもしれないということに気が付いて欲しかったのだ。
「物語は、”めでたし、めでたし”で終わってはいけない。本当にそれがめでたいのかを考える必要があるはずだ」(山﨑氏)